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講演会

医学博士志村哲祥氏が講演「朝起きられないのはなぜ? 睡眠リズムを考える」

朝起きられないのはなぜ?
睡眠リズムを考える
―今日からできるこどもへの睡眠指導―

 成長期の子どもはもちろん、大人にとっても大切な睡眠。高等学院の「こどもの育ちを考える講演会」では20231125日、医学博士の志村哲祥氏を講師に、「睡眠」について学びました。講演の要旨を一部ご紹介いたします。

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よく言われるけれども・・・
・22~2時が成長ホルモンが出る「睡眠のゴールデンタイム」
・8時間睡眠がベスト
・居眠りは、だらけているから
・早寝早起きすべき。朝寝坊は怠惰でたるんでいる
・頑張ればショートスリーパーになれる

⇒ 間違い!

睡眠とは
睡眠はパソコンやスマホの電源オフ、シャットダウンとは異なります。単に休んでいるわけではなく、心や体が成長する大事な時間です。
睡眠中は脳全部が休んでいると多くの方が誤解していますが、実は違います。睡眠中枢という、活発に動いている部分があります。睡眠中も、そこが活発に動くことで熟睡が作られます。寝ている時は、起きている時とは違うモードで脳が動いているのです。

睡眠中の脳と体の働き

*脳
・脳の中を脳脊髄液が流れることで認知症の原因物質と言われるアミロイドβ(ベータ)やさまざまな老廃物が洗い流され、脳を掃除する。
・神経細胞が伸び、ほかの神経細胞と接続し合って情報をやり取りする。(うまく眠れていないと、神経が成長せずに記憶が作られないとか鬱などの問題が出てくる)

*体
睡眠中に分泌される成長ホルモンが、下のような働きをします。
小児期⇒骨、筋肉、各器官の成長と発達を促す
思春期⇒(性ホルモンと共に)性的な成熟を促す
成人期⇒体の代謝バランス、筋肉や骨の量・精神的な健康を保つ


 成人でも、成長ホルモンが多いと、記憶力が高まる、意欲が高まる、骨が丈夫になる、生殖機能が保たれる、免疫が保たれる、脂肪が燃える、糖が燃える、筋肉が維持されるなどの効果があります。

成長ホルモンはいつ出る?
 成長ホルモンが出るための「睡眠のゴールデンタイム」はありません。時間ではなく、最初の熟睡時にいっぱい出ます。よく「10時に寝ないと背が伸びない」と言われることがありますが、何時に寝ようが、きちんと熟睡していればホルモンは出ます。ただし、睡眠時間が著しく短い、熟睡していないなどの問題があるとあまり出ませんので注意が必要です。

睡眠の評価軸は「量・質・リズム」

子どもの睡眠時間の目安    
      乳児  13~16時間                
      保育園 12時間~                
      幼稚園 11時間~                
      小学生 10時間~                
      中学生 9時間~                
      高校生 8.5時間~
 *「8時間睡眠」は、ほとんどの子どもには睡眠不足

 
 大人では、20歳くらいで8時間強、30歳を過ぎると8時間を下回ってきて、40歳過ぎで7時間ぐらい、50歳で6時間くらいと、睡眠時間はだんだんと減っていきます。そして、50歳を過ぎると、6時間いらないくらいです。
 ある実験で、平均23歳の若者たちの睡眠時間を測定したところ、平均7時間半でした。7時間半寝る若者は、睡眠が足りていると思うかもしれません。しかし、同じ人たちを、実験室で21時頃から翌日9時頃まで真っ暗な中で強制的に寝かせると、元々7時間半寝ていた人が、初日は11時間、2日目は9時間半寝て、4・5日目頃からだんだんと寝不足の影響が取れ、7日目以降頃から8時間半になりました。つまり、この人は、夜更かしや早起きをせずに寝かせた場合、本当は8時間半寝ているわけです。
 この普段寝ている7時間半と、本当は体が寝たい8時間半の差を「潜在的睡眠不足」「睡眠負債」と言い、実は心身に負担がかかっています。

 充分な睡眠をとった場合、例えば、下のような効果があります。

●糖尿病の原因の血糖値→下がる 
●インシュリン→上がる
*糖尿病は、インシュリンが出ない病気
●甲状腺刺激ホルモン→上がる   
*代謝を作るホルモン。このホルモンが減ると、何となく体がだるい、体が冷える、 やる気が出ない、太りやすくなる、などが起こる。
●副腎皮質刺激ホルモン→下がる  
*ストレスを受けると上がるホルモン


睡眠時間は遺伝する

 一方、個人差があります。勤労者の平均睡眠時間を7時間としますと、5時間以下でも良い人が2%、逆に本当は9時間必要な人が2%います。中高生に換算しますと、本当の睡眠時間は9時間弱くらい必要ですが、7時間でも平気な子が2%、11時間必要な子が2%います。この睡眠時間は遺伝で決まります。
 親の背が高いと子どもの背も高くなりやすい、親が低いと子どもも低くなりやすい。実はそれ以上に、睡眠時間は遺伝します。親の睡眠時間が長いと子どもも長い。親が短いと子どもも短い。
 そして、ショートスリーパー遺伝子があります。この遺伝子がない限り、寝ないと、基本的に心身を害します。後から訓練すれば短時間睡眠できる、ということはありません。

睡眠不足の目安は昼間の眠気と寝付き時間

 「睡眠が足りているか」の目安は、昼間の眠気と寝付き時間です。
 電車の中で座っているとボーっとする、あるいは眠くなる、退屈な話を聞いている時に眠くなるなどは寝不足のせいです。また、布団に入って5分以内に寝付くのは、寝不足が強すぎて体がすぐに寝てしまうためです。

幼少期の睡眠不足は将来に悪影響

 朝起きるのに苦労するのは寝不足のためです。十分に寝ると自然に目が覚めるため、目覚ましが必要な段階で睡眠不足であると言えます。

幼少期の睡眠不足は、
・将来太りやすくなる
・生活習慣病になりやすくなる。
10年後のIQが低くなる傾向が生じるなど、将来に悪影響を及ぼします。
記憶は睡眠中に定着するため、睡眠時間を削って勉強すると逆効果になります。一時的には成績が上がりますが、成長してからが怖いです。

子どもの生命を守るためにも大切な睡眠
 強いストレスや不眠、寝不足が続くと神経がすり減ります。特に、人間の高度な認知機能を支えたり、不安や怖いという気持ちを抑える回路の部分が先にダメージを受けます。睡眠を奪われ続けると、何もなくても、不安、悲しい、落ち込む、死にたい気持ちが出てきます。
 睡眠時間が8時間未満の若者は、自殺率が約3倍高くなります。日本人は世界で一番眠らない傾向にあり、中1では平均7時間半、高12では6時間強です。他の国では8時間半~9時間寝ています。日本だけが飛びぬけて子どもの自殺率が多いのは、もしかしたら睡眠と無関係でないかもしれません。
 睡眠を軸とした生活設計や健康管理は重要です。最初に睡眠の枠を決め、その後で他の活動を設計していくように指導してほしいと思います。

眠りの質
 熟睡は年齢と共に減っていきます。眠りの質の定義はありませんが、「ぐっすり眠れない」「何度も起きる」「眠っても疲れが取れない」という場合は何か問題があります。

<子どもによくある、睡眠の質を悪化させる問題>
・カフェイン
・睡眠中の光
・暑すぎ/寒すぎ
・添い寝
・鉄欠乏/むずむず脚症候群/睡眠呼吸障害など
・皮膚科/耳鼻科疾患 など

 就寝前に50mgのカフェインが体に残っていると、熟睡が量に比例して減っていきます。紅茶、ほうじ茶、ウーロン茶、緑茶も、100ml中に20mg程度のカフェインが含まれますので、寝る前に500mlのペットボトルを1本飲むと、単純にカフェインは100mgになり、市販の眠気覚ましドリンク1本分くらいになります。コーヒーならマグカップ約半分です。カフェインの半減期は37時間。平均5時間くらいで体から半分抜けます。つまり、ペットボトル1本飲むと、睡眠に影響を及ぼさなくなるには5時間かかるわけです。子どもほどカフェインの代謝は遅いです。
 また、室温が1828度の範囲を超えると眠りが減ります。寒い時、布団を重ねても意味はありません。顔に冷たい風があたると交感神経が緊張して眠りが少なくなりますので、部屋を暖める必要があります。
 添い寝など、誰かが一緒だと熟睡できません。
 寝ようと思うと、足がむずむずそわそわする感じがする。動くと若干改善され、動かないと症状が悪化する。夕方や夜にかけて症状が出る。子どもは、むずむずではなく痛みとして出ることがあるため教師や小児科医に成長痛と誤診されますが、寝ようと思う時に痛いなら成長痛ではなくてむずむず脚です。
 睡眠時無呼吸(睡眠中に息が止まる)は、大人の場合は心筋梗塞や脳梗塞のリスクがあり、子どもも成長の遅延、知能の発達の遅延を招きます。子どもが、起きても疲れがとれない、昼間寝ている、寝ている時にいびきをかくなどがあれば注意が必要です。疑いがあれば耳鼻科へ。

睡眠のリズム
 子どもは、小学生以降思春期に向けて急速に体内時計が「夜型化」していきます。生活習慣のせいではなく、元々そのように設計されており、人間以外にも様々な霊長類や哺乳類に見られる現象です。20歳頃以降は老年期にむけて次第に「朝型」になっていきます。朝が辛くなくなる、遅刻がなくなるのは、社会人の自覚がついたからではなく老化によるものです。
 「眠れなくても、布団の中で横になって目を閉じているだけでも意味がある」は間違いです。眠れないのに布団の中で横になっていると、「布団=眠れない」という条件付けがされ、「条件付け不眠」になります。ソファなどで横になり、眠くなったらベッドに移動すると良いでしょう。

「睡眠禁止ゾーン」
 7分以内に寝られるかの実験では、14時、15時は割と眠れます。これは昼寝。その後は逆に眠れなくなり、普段寝る時間の2~4時間前は「睡眠禁止ゾーン」という一番眠れない時間です。従って、普段0時や1時に寝ている子に対し、1011時に寝かせても、「睡眠禁止ゾーン」にあたっていて眠れません。眠れない上に、ベッドに寝かされていると不眠の状況を起こすので注意が必要です。

光とメラトニン
 睡眠のリズムは、多少は動かすことができます。大事なのは光とメラトニンです。
 メラトニンは明るいと出ず、暗くなると出て「今が夜。外は暗い」と伝えてくるホルモンです。青っぽい光を浴びると、青空が広がっていると認識してメラトニンは消滅します。夜にオフィスや塾の明るい照明の中にいても、体は昼だと認識してメラトニンが消えます。白熱電球の弱い光くらいで夜だと認識します。
 子どもの方が夜の光に弱いです。子どもの瞳は透き通っているため、光をたくさん通します。4050代と10代の子どもは透過率が5倍違い、子どもは大人の5倍見えています。その結果、多少の光であっても、子どもはメラトニンが消えます。あるいは、寝ている最中に光があると熟睡できません。

体内時計の時差
 深夜までテレビやスマホを見ていたり、明るい場所で過ごしたり、もしくは朝に遮光をしていると何が起きるか。光は光源が近いほど強く、スマホは距離が近いため、寝ながらスマホを使っていると、小窓から空が見えていると体が誤解してまだ昼間だと認識します。スマホを切った瞬間に、やっと体が日が暮れたと認識します。例えば、深夜1時にスマホを切ると、本当は18時に日が暮れているのに、体は67時間遅れて夜だと認識します。また、遮光カーテンや部屋の向きにより朝日が入らないと、起きて部屋から出るまで体は夜だと思っています。その結果、光に敏感な子は、それだけで一年中、67時間の時差が出てきます。日本にいるのに、体内時計はヨーロッパ時間で動いていることになるのです。

このような子はいませんか?
・朝の5時にならないと眠れない
・昼の13時にならないと目覚めない
・朝はおなかがすかない
・夜はたくさん食べる
・深夜も何か食べている
この場合、体内時計が日本時間でないことを示唆します。

*時差の改善方法
・朝や昼は明るくする。閉じた瞼は90%の光を遮断するが、残りの10%で眠っていても朝を認識する。
・昼に明かるければ明るいほど、夜にメラトニンがたくさん分泌される。日光にガンガンあたらなくても、窓越しのひなたぼっこでも良い。


 血圧、体温、心拍数にもリズムがあります。普通、朝5時頃に血圧の最下点が来ますが、これは体内時計に依存しています。3、4時間の時差があると、一番血圧が低い時が午前8時、9時に来るため、起こしても全く起きない、無理に起こしても起き上がれない、頭が痛い、気持ちが悪い、体調が悪い、寒い、吐き気がする、などが起こります。小児科に行って血圧を測ると、当然、一番低く出る。この結果、「起立性調節障害」と誤診されます。本当の「起立性調節障害」は、起こせばフラフラし、朝だけでなく昼夜も具合が悪いです。朝だけ具合が悪く昼夜は元気という場合は、おそらく時差。リズムに問題があります。朝起こすとやけに機嫌が悪い、記憶がない、人格が変わっている場合は、「睡眠酩酊」という意識障害があります。これも、リズムがずれている特徴です。

まとめ

睡眠の質とリズムを保つために大切なこと
・寝かしつけたい時間の2時間前にはかなり暗くする。
・睡眠中は基本的に真っ暗が望ましい。常夜灯でも、熟睡が若干減る。
 *メラトニンが抑制されない明るさは30~50ルクス以下。目安は「間接照明」の画像検索で出てくる、雰囲気の良いレストランやバーなどのイメージのオレンジ色の光。
 *視力の低下は、明るさではなく、焦点距離に比例する。スマホは近いから視力が低下する。子どもは瞳の透過率が大人の5倍あるため、大人が思うほど暗くない。

子どものリズムを整えるためには
・「早く寝なさい」「早く起きなさい」は意味がなく、自然にそうなるような環境作りが大切。
・朝日が寝室に十分に入るようにする。
・目が覚めた後の部屋も、太陽の光を十分子どもが見えるようにしておく。
・日が暮れたら部屋をなるべく暗くする。
・夜の決められた時間を過ぎたら、テレビやスマホの画面を見せない。
 *ラジオ等で音を聞いている分には、睡眠は影響を受けない。
・上記のことを守っても深夜/早朝まで眠れず、朝起きられない時は睡眠外来を受診する。

 睡眠は万能薬な要素があります。睡眠不足だと、成績が落ちる、記憶力が低下する、認知機能が低下する、不登校になることもあります(どんなに学校に行きたくても、起きられなければ出席できない)。量・質・リズムに気を配ることで、「よい睡眠」を手に入れることができ、その後の人生にも良い効果があります。

(まとめ・広報室)