私たち東京YMCAは、「青年」という言葉を生み出し、「たくましい子どもたち、家族の強い絆、支え合う地域社会」を築くための運動を展開する公益団体です。

  1. ホーム
  2. キャンプ・野外教育
  3. コラム「キャンプの力」

コラム「キャンプの力」

YMCAキャンプのもつ力・影響力などについては、古くからさまざまな専門家によって多くの研究がされています。
ごく一部ではありますが、ご紹介します。

子どもたちの心身を育むキャンプ体験

文教大学名誉教授 東京YMCA長期少年キャンプ野尻学荘 元荘長

森井利夫さん

2013年5月「夏の野外教育キャンプ コンセプトブック」より

子どもたちの心身を育むキャンプ体験 森井利夫

YMCAが実践するキャンプは、単に漠然と自然に親しむキャンプではなく、「組織キャンプ」とよばれるものです。明確な目的があり、その目的を実現するために、よく訓練された指導者が豊かな自然環境を素材として用いる共同生活です。

このキャンプを説明する時、私は「人間らしい生活の創出」と表現します。人間らしい生活とは、「自己実現」と「他者との共生」の二つを同時に追求する生活だと考えています。「自己実現」とは潜在的なものも含め、一人ひとりのパーソナリティーが持つ可能性(個性、才能、価値観など)を最大限に伸ばすこと。「他者との共生」とは、自己と異なる人とできるだけ多く、深く交わり、互いを受容し、尊重し合う生き方です。これらは言葉で教えて充分に理解できるようなものではなく、それらを育むような生活を実践してこそ、体験的に身につくものではないかと考えています。

適切な環境、施設、設備や指導者が確保された組織キャンプは、このような人間としての大切な資質を養うのに、きわめて効果的です。小集団を単位にした生活は、さまざまなプログラム活動を通して、ほかの人々と結びつく体験をもたらし、確実に一人ひとりを変えていきます。

現代社会を見ると、子どもたちの心身の成長は、さまざまに歪められています。成長に不可欠な生活体験や人間関係が著しく偏っていたり、制限されていたりするケースが非常に多く見られます。 この問題については、枚挙にいとまのないほど指摘されていますが、そこで提案されるものの多くが、「奉仕活動の義務化」や「道徳教育の強化」など、およそ私たちの願う方向にはほど遠いものばかりです。一人ひとりが他者から期待され、尊重される存在であるという実感が持てること。これがスタートでなければなりません。

その意味でキャンプは最適です。共同生活ですから、個人が自分を発揮することと他者と共働することが、自発的に興味をもって体験できるよう、それにふさわしいプログラムが組まれます。期間が短いとイベントで終わってしまい、個人やグループに大きな変化を与えることは難しくなるので、キャンプは4日~1週間程度の期間が最適でしょう。また、日帰りのデイキャンプを繰り返してもよいでしょう。 キャンプは、子どもの全人的な成長を図る教育的な営みとして、人間らしい生活の創出と心身の健康を求める実践として、最適な手法です。

キャンプの力 ― 〝限りなき成長〟

文教大学人間科学部専任講師。文部科学省生涯学習政策局生涯学習調査官、国立青少年教育振興機構客員研究員ほか。
専門は社会教育・生涯学習論。前東京YMCA野尻学荘プログラムディレクター

青山 鉄兵 さん

*少年長期キャンプ「野尻学荘」80回、「野尻小学生キャンプ」20回を記念し、青山鉄兵さんにYMCAキャンプの意義を聞きました。(機関紙「東京YMCA」2015年7/8月号掲載記事より) 聞き手・星野太郎(本部事務局)/文・広報室

キャンプの力 ― 〝限りなき成長〟

――青山さんは小学生の頃からYMCAキャンプに参加し、学生時代にボランティアリーダーを務め、以来ずっと野尻学荘を指導しています。またその体験をもとに社会教育・青少年教育の研究をし、大学でも教えていらっしゃいます。

【青山】 私は大学生の時に初めて「野尻学荘」に参加しましたが、楽しいことがたくさんある一方で失敗や苦労もたくさん経験しました。初めて出会った友だちと2週間寝食を共にするのですから当然、葛藤やストレスもおこります。他では体験できない、すごく濃密な人間関係を味わう機会でした。

――YMCAは戦前からずっと「小グループでの活動」を基本にしてきました。5~7人の参加者に1人の指導者がつき、その小グループで生活・活動します。

【青山】 そうですね。YMCAのキャンプはただアウトドアの活動をするのではなくて、このグループでの関係を大事にしてきました。それは社会性や協調性、コミュニケーション能力を高めると同時に、自分の個性や「自分らしさ」に気づく機会でもあります。友人との人間関係ができていく中で自分との違いを知り、自分を表現し、自分らしさを見出していきます。

 今の子どもたちの人間関係って、学校の中だけに閉じられがちですよね。学校が違う子や、年齢の違う子、大学生との関わりなどは、とても貴重です。そういう出会いを大切に、こだわりをもってやってきたのがYMCAキャンプの伝統だと思っています。

――最近は、企業や行政でもさまざまなキャンプをやっています。

【青山】 山に登る、ボートに乗る、そういった体験をすることだけを目的にした〝パッケージ化〟された体験も多く見かけます。けれどもYMCAが大事にしているのは、「体験すること」の先にある成長です。少しの失敗も含めて子どもがチャレンジできるとか、友人同士のぶつかりあいがあるとか、そうした過程を大切にする。その方が成長の度合いが大きいという信念があります。

――YMCAは、キャンプのための専用の施設を使ってキャンプをします。これも大きな特徴です。ホテルとは違って簡素で、野尻のキャビンには電気もありません。

【青山】 YMCAのキャンプ場がすごいなと思うのは、教育施設のような「真面目」で「つまらない」雰囲気がない一方で、レジャー施設のような商業的な派手さもなく、それでいて子どもたちを惹きつけるシンプルな魅力に富んでいるところです。子どもたちが本気で遊べてかつ成長できる、すごくいいバランスがあるんです。野尻学荘は、ゲームなどの持ち込みを禁止していないですが、彼らの多くは2週間の間に自分から手放します。もっと楽しいことに出会える時間と環境が用意されているんです。
 キャンプ場の生活は自由だなって思うときがあります。子どもたちは普段の生活では、自分で遊んでるようでモノに遊ばされている感じがあります。テレビもゲームもすごく受動的な遊び方ですよね。クリエイティブな感じがしない。それが自然の中でのシンプルな生活だと、生活に創意工夫や遊びがある。自分なりの、主体的な、創造的な面がすごく多い。

――野尻小学生キャンプは1週間、野尻学荘は2週間と、他のキャンプよりも長期間です。時間の長さはどんな力をもっているでしょうか。

【青山】 1週間を超えるキャンプでは、どんな子でも猫をかぶり続けることができなくなって「地」が出てきます。だから本音で人と関わることができる。それが長期キャンプの強みです。それから野尻のキャンプは自由時間がとても長い。1~2泊の林間学校などは、バスに乗ったと思ったら登山口に着いて、山から降りたら伝統工芸品を作って、バーベキューして花火するとか。忙しいですよね。もちろん一つ一つの経験は子どもにとって貴重ですけど、野尻では、いい環境といい人間関係の中でゆったりと、創造的なことを生み出せるたくさんの「すき間」がある。すごく贅沢な時間があります。

――長期キャンプでは、自分が興味をもったことに時間をかけて取り組むこともできますよね。

【青山】 野尻では、ヨットやボートなどのほかに、アーチェリーとか、音楽、クラフトなどもできます。子どもが興味をもったらすぐにチャレンジできる環境が用意されていて、必要であればリーダーが教えてくれる。子どもが自分のやりたいことに、じっくり取り組める。25メートル泳げなかった子が練習して、3キロの遠泳を泳ぎ切ったこともありました。こういう体験をすると子どもは見違えるほどに成長します。かけがえのない体験です。

――指導者の役割も大事です。

【青山】 YMCAのキャンプでは、ボランティアリーダーがすごく活躍します。彼らはトレーニングを受けて、長い期間をかけて準備して、アルバイト感覚ではない関わり方をしてくれる。しかもYMCAでは、参加した子どもたちが大きくなってボランティアリーダーになっていく、そういう循環があります。子どもとリーダーが関わって、その両方が成長していく。魅力的な場です。

――野尻や山中湖のキャンプではチャプレン(牧師)も生活を共にすることを大事にしています。

【青山】 YMCAのキャンプは、キリスト教を教えるための場ではありません。しかし、キャンプがただの遊びではなくて教育の場であるためには、支えとなる価値観が必要です。実際子どもたちにとってチャプレンから聞く話は、心に響く、いい刺激になっています。

――リーダーやチャプレンなど、学校とは違うたくさんの出会いの中で、他者との関わり方、そして自分の生き方を見つけられるような、そんな機会がキャンプにはある。まさにYMCAが目指す〝人を育てる〟活動です。

【青山】 最近、「キャンプは1つの実験だ」と思うんです。普段と違う自分を体験してみる実験でもあるし、逆に、キャンプでのシンプルで、創造的で、民主的な生活を普段の生活で試す実験もできる。〝新たな生き方〟にチャレンジしていく実験的要素があります。

――これからのYMCAキャンプの課題は?

【青山】 社会的には子どもの格差の問題があります。格差は、特に夏休みなど学校教育でない場面で広がります。YMCAは、たとえば企業とタイアップして経済的に困難な子も参加できるようにするなど、もっと間口を広げる必要がある。そして日本中の子どもたちの夏休みや放課後の質を高めていくことができればと思います。